「 かわるもの かわらないもの 」

 パラスパレスの足元を支えてきた釦ブーツに、新たにパテント革が登場します。

エナメル革ともいう、牛革の表面を樹脂コーティングした、美しい光沢が目を惹く素材です。秋の装いに、新たな表情が加わります。

このクラッシックな靴は、長年ものづくりを一緒にしてきた、株式会社ヴァーブクリエーションの猪俣さんにつくっていただきました。猪俣さんが、イタリアのアンティークショップで出会った一足を、レディースへと仕立て替え出来ました。
そこへ、時間と共に味わいが増すゴート革とスエード革の組合せ、釦の形とバランスなど、私たちのこだわりを込めています。

本来は、釦で脱ぎ履きしますが、足入れのしやすさを考えて、ファスナーを着け加えました。釦付はゴム糸を使い、しなやかさを持たせています。
そして、ブラックラピドという足への馴染みがよく、耐久力の優れた製法にしています。これにより、靴底は全て交換出来るようになっています。そこには猪俣さんの、靴と長く付き合ってもらえますように、との思いが詰まっています。

 この特徴である釦は、最大の難所でもありました。
靴は、平面パーツを組合せて立体化していきます。釦穴をかがる工程も、平面でなければ出来ません。革の厚み、絶妙な穴の位置、糸の調子など……履いた姿を想定しての作業は、職人の勘だけが頼りです。実は、ミシンを二台壊してしまったほど、険しい道のりでした。
 さらに、新作は傷がつきやすく、湿気が苦手な、扱いの繊細な革です。作り手の苦労は想像に難くないことですが、見事に確かな技術力で応えていただきました。

 艶やかなパテント革は、無変化を楽しむ素材です。
私たちは、インディゴに代表するよう、身につけていく中で変化を楽しむことを大切にしてきました。これは、真逆なのでは、と捉えられるかもしれません。
しかし、基となる革が上質であり、初めて贅沢な表情は生まれるのです。この靴は、素材も、仕立ても、見えないところまでしっかりと作られています。これは、私たちのものづくりの根っこと同じことです。

 日々の空気をしなやかにまとう、そんな一歩になることを願っています。