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揺らぎの味わい、揺るぎのない仕事      


扉をあければ、鼻の奥にツンと来る冷たさ。 首元までそっと洋服を引き上げて 包まれてしまいたくなるような自分の体温まで 感じることができる、冬です。

カットソーにセーター、ブルゾンにロングコート......今年も、いくつもいくつもの自慢のアイテムを作ってきました。 その数、実に400点近く。 

手作業で一から生み出すそれらにはすべて、 それぞれの素材、それぞれの技術、それぞれのかたちの 愛おしさがあります。
そして、ふわりと手触りのいいもの、 つやっと光沢のあるもの、パリッとハリのあるもの。 手触りも風合いも、色の深みもずいぶんと異なりますが、 その裏にはすべてそれらを計算しつくした、 繊細で緻密な手仕事があるのです。

今回は、“パタンナー”のお話です。
服や布小物を作る「型紙」を見たことはあるでしょうか。 パタンナーとは、本当に大まかに話せば、 あの「型紙」をつくる人のことです。 たとえば、左のこのチェックのコートを縫い上げるのに、 必要な型紙は、実に30枚。 袖も背中も裏地だって必要ですから、それだけの数になるのです。

デザイナーの頭の中から、紙へと写されたデザイン画。 その平面の服を、さらに頭の中でぐるりと組み立て、 縫い上げる方法を吟味し、実現できる形を考える。 それがパタンナーの仕事です。 何枚の生地が必要で、どんな縫い方をするのか。 その糸の縫い終わりの始末はどうするか。 ボタンの大きさはどのぐらいで、それはいくつ必要か。 紙や布で試し縫いをし、細かく細かく確認をしていきます。

そして最後には実物の生地を使って、本物そっくりの模型まで縫って仕上げます。 洋服とは、「着る」を通してはじめて仕上がりが目に見えるものだから。

型紙とは、建物や複雑な家具のそれと違わぬ、緻密な設計図です。 その設計図を書き上げ、縫い上げるための指示を行い、 確認をするまでがパタンナーの仕事なのです。
たとえば、丁寧な建物や家具は 経年による変化まで考慮してあることがあります。

では、洋服はどうでしょうか。 まず、パラスパレスの服は縫製後に水洗いをするので、 そこで起きる縮みをあらかじめ考慮します。
そして何より、
「自宅でお客さまが洗うたびに風合いが変わる」
「味わいが生まれる」
というのが、パラスパレスのこだわりですから、 そこで起きる縮みや変化まで考え抜いたうえで寸法や縫製技法を決めています。 もちろん素材ごとに縮み方は異なり、 また仕上がるまでにも、些細な変化が起こるもの。 そんな微かな揺らぎまでも考慮して設計するのが、 パラスパレスのパタンナーの、誰とも約束せぬ「決まり」なのです。

けれど、生地や糸は揺らいでも、パタンナーの仕事が 日ごとに揺らぐことは決してありません。 部署のリーダーを務める安積さんは言います。 「パタンナーって、“正確で当たり前”という仕事なんです。 ちょっと寸法が違う、ボタンホールの場所が数ミリ違うだけで、 丁寧に作られた生地もデザインもすべてが台無しになっています。 ロスは生み出したくありませんから」 手元には、丁寧に細かく書き込まれたメモと、 今日1日で行う作業のリストが作られていました。

この仕事のこだわりを聞きました。 「わたしは、パタンナーは『形をデザインする仕事だ』と思ってるんです。 デザイナーが思い描いたものを、なるべくそっくりそのまま立体的に具現化する。 尚且つ『おお、思っていた以上に良い』と。そう思ってもらうためにやっています。 どんなことも『できません』とは言いません。物理的にできないことなんて、実はほとんど無いんで す。こんなふうに手間をかければできる、こうすれば近いものができる、こうすればより良い形に できる......。常に選択肢を持って、デザイナーに提案します。パタンナーにとっては“形にする”と いうことが、役割でありプライドなんですよ」

頭を動かし、手を動かし、重ねられたものづくりの結果生まれる、たくさんの洋服たち。 すべては、心地よく、その服を着るだれかを、素敵に彩り、愛されるためです。
そんな願いが込もったあたたかな衣装に身を包んで、 どうかぬくもりある冬を過ごせますように。
(文:中前結花)
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