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また、春からはじめる




春が訪れるとき。

それは、ようやく、肌で感じはじめた陽気に心ほどかれるように、
「ああ、もう、そんな頃合いなんだなあ」
と、わたしたちは着込んだコートをそろり脱ぎはじめます。

おかげでずいぶんと身は軽くなり、
なんだかぽかぽかと眩しいような
心なしかすこし眠いような…
そんなあたたかな心地に包まれる季節の訪れを
きっと誰もがうれしく思っているはずです。

冬の寒さが厳しければ厳しいほど、
耐えしのぐ季節が長ければ長いほど。
どこか「安堵」にも似た気持ちが大きくなるのかもしれません。
だって、乗り越えた先にいつもあるのが、
このやさしい「春」だからです。

今年も訪れた、ひとつの節目でもある
はじまりの季節。
そしてこの1年は、例年にも増して、耐えしのぎ、乗り越えることが
誰しも本当に多かったように思います。


そんな中で 改めてわたしたちの心を震わせてくれたのは、
お店に足を運び、商品に触れてくれるお客さまのありがたさでした。
ことばにしてみれば、なんて月並みなんでしょう。
だけどその想いは、おしゃれをして出かけるシーンが少ない今も、
わたしたちがつくる洋服を選んでくださることの、その「意味」について
今一度よくよく考えてみるきっかけにもなりました。

原点回帰ー。

まさにそうした想いで、これまでの商品・生地についても振り返り、
パラスパレスのベースでもあり、もっとも大切にしている「インディゴ」について、
ここでもう一度、改めて熟考することにしたのです。

そしてたどりついたのが、
“今しか作れない、新たな「インディゴ」を生み出し、提供したい”
という想い。
“今”を詰め込んだ、新たな表情の「インディゴ」を、
もう一度、0から作ってみることに「よし」と決めたのでした。

***

その工程は、すべてを見直すため、
糸作りからはじまりました。
より味わい深く、表情豊かな仕上がりを目指して、
落ち綿を利用する「ラフィ糸」を使い、
ほんの微妙な差を何度も何度も確認しながら、
完成形を「これでもか」というほど頭で想像し、
そのブレンドにこだわり抜きました。
そうして完成したのが「パラス38.5」という絶妙な表情を持った、新たな糸です。

そしてこれを染めるのも、また新たなインディゴカラー。
わたしたちなりの新たな解釈を加え、
ブルーグリーンを一層、使い込むほどに豊かな表情を見せてくれる色へと一歩進めることにしました。
「黄味」の配分にもとことんこだわり、
織って、洗いをかける、そのあとの工程についても想像を重ねながら、
「これだ」と納得のいく「新色03番」を完成することにたどりつきます。

加えて、なんとここまでの作業はすべて「リモート」で行った、
ということも、わたしたちにとって新たな挑戦でした。
普段であれば産地にお邪魔し、その場で工程に触れ、
意見を出し合いますが、それが叶わぬ状況の中では、
より丁寧なコミュニケーションが求められました。

そして、そこから新たな糸を、新たなカラーで染めてくださったのは、
広島県の「坂本デニム」さんです。
採用されているのは、束にした糸を染め液につけたあと、
地上3階近くまで引き上げ、順に濃い液で染め上げていく
「ロープ染め」という手法。
染め液がぶくぶくと泡立つのは、酵素が生きた活きのいいインディゴの証です。
見上げても、すべては見たりぬような壮大な機械で、
新たな糸が、はじめてのインディゴカラーに染められていきます。

「不思議な色合い、多様な顔を持っているのがインディゴの魅力だと思います。
新たなカラーは、色出し・色合わせが非常に難しいものでしたが、
昔ながらの本藍生地のような風合いを、完成させることができました」
と、坂本デニムの元川さんは自信を持って話してくれました。

そして完成した「表情たっぷりの新色の糸」を、
馴染みの桑村繊維さんに織り上げてもらい、
ようやく、これまで想像を重ね続けた生地が、
想像以上の魅力を持って誕生しました。

実に、半年ほどの時間をかけて生まれた、
風合いたっぷりの、そっと触れたくなるような、新たな生地です。

この生地の表情をたのしんでもらうため、
あえてシンプルでさらりとした着心地のシャツに仕上げたのも、
わたしたちなりの「届けたい形」でした。
同じインディゴを使用した、ちょっと異なる2色のシャツ。
だけど袖を通して見ると、襟元と袖口には、
それぞれ異なる相互のカラーを使用していて、
「あら」と気づいて、うれしくなってしまうような仕掛けは
しっかりと用意しているつもりです。
着れば着るほど、表情も豊かになっていくこの魅力を、
どうか手に取り、袖に腕を通して、確かめてほしいと考えています。


「いつか、この服を子どもに譲りたいから大事に着ているのだ」
と話してくれたお客さまがいました。
そしてわたしたちだけでなく、
糸を染めてくれた「坂本デニム」さんもまた同じように、
「引き継いでもらえるような洋服になれば」と
願ってくれていることを、今回のものづくりで知ることができました。

糸を染める段階から、洋服となったその先まで想いを馳せ、作業してくれていること。
離れているからこそ、微妙なニュアンスを丁寧に伝えながら、一層、ともに心を重ね、ものづくりをすること。
どれも、わたしたちがこれまで知らなかったことばかりです。

経験したことのない時間の中で、
悲しいこと、苦しいことだけでなく、たくさんの「はじめて」と
出会った1年でした。

そして変わらず、今年も訪れた「春」。
あれもこれも乗り越えたわたしたちにこそ似合う、
さらりとしなやかでいて、どこかやさしい。
まったく新しいインディゴのガーゼのシャツを
今だから届けたいのです。

わたしたちは、大丈夫。
まだまだ何度だって、うれしくなるような春を迎えることができるから。
新しい色で、新しい春を、一緒にはじめませんか。
「はじまり」のおともに似合う、そんな新しいアイテムです。