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春を越えて、末長く。

コートを脱いで、思いっきり深呼吸したくなるような季節がやってきます。
何はなくとも、浮き足立ってしまうような春。

装いも、「新しくってうれしい」そんなアイテムで揃えたくありませんか。

新しい洋服との出会いって、なんだか不思議です。
たった一瞬で強く惹きつけられるもの、どこか懐かしくて、どうにも「自分のものだ」と感じ入ってしまうもの、これからの長い長い付き合いをそっと予感させてくれるもの……。

今回は、そのシルエットと佇まいに瞬間的に惹きつけられるのに、すっかり末長い関係を信じてしまう、そんなブルゾンとパンツのお話です。

生地は、この2型のためにオリジナルで作った「ラフィバックチノ」。
「チノ」は「チノ」でも、これまで多くの人が慣れ親しんできた「チノ」とはひと味もふた味も違うものです。
作る工程で「落わた」を混ぜ込んだラフィという糸を使っていますから、生地には独特のムラ感があります。それが、味わい深い風合いとなるのが、この糸のおもしろいところ。


ラフィとパラスパレスは20年来の付き合いで、インディゴ、トップ染のカットソー、Tシャツ……と、これまでに数々の製品を生み出してきましたが、
「定番アイテムともいえる『チノパン』を、この糸で作ったことがなかった」
とハッと気づいたのが、今年のことでした。
他でも、そんなチノパンは見たことがありません。
つまり早い話が、
「ラフィで織ると、どんなチノになるだろうか」
と試したくなる気持ちと、
「きっといいものができる」
という確信めいた想いが混ざり合い、こうして生み出すきっかけとなったのです。

今年の初夏には、サンプルの生地を24通りも作ってもらいました。
お付き合いいただいたのは、兵庫県の桑村繊維さん。
無理を言って、タテ糸を2パターン、ヨコ糸を12パターンも組み替えて、生地を織ってもらったのです。ラフィ糸には落わたが混ざっていますから太細にもムラがあります。一筋縄ではいかない素材を使ったものづくり。
骨の折れる作業だったことと思いますが、全種類を丁寧に作り上げ、届けてくださいました。
そんな24種類のできあがった生地の中から、わたしたちは両手を使って何度も何度も触れて想像し、「これだ」という1種類を選び抜いたのでした。

決め手は、パンツのシルエットがいちばん映えそうなこと。それでいて、適度にやわらかさがあり、着馴染みやすさが想像できたこと。
今回はこの1種類を選びましたが、その他の生地たちも今後のものづくりに必ず活用していくつもりです。

この生地の特徴は、自然な風合いだけではありません。タテとヨコで、わざと色をわずかに変えて作っているので、単色でも色に深みがあります。
そして、表と裏で色味が異なっているところも、大切なポイントです。
その色のちがいを活かして、ブルゾンもパンツも配色使いし、デザインのアクセントにしているのです。


他にはない魅力がたっぷりと詰まったアイテムたちです。
パンツは白シャツと合わせたり、ブルゾンは気軽に身に着けて、日々の相棒にしてもらいたいと考えています。
またベージュの他に、同じ型のアイボリーも用意しました。
10年でも20年でも、末永く、さりげなく、取り入れてもらうことができたなら。
そんな付き合いをはじめてもらえたなら。
それが、この春のわたしたちの願いです。


(文:中前結花)