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「世界にひとつ」のうれしさを。


空気が澄んで、ぐっと空が高く見える秋です。
夏が去っていくさみしさを拭ってくれるような秋晴れが心地よく、
なんだかどこまでも歩いていけそうな気分になります。

軽い足取りの相棒にしたいのは、この季節にぴったりのレザーアイテム。
その豊かな表情や、使い込むほどに馴染んでくれる手触りの良さには、
誰かに「わたしのもの!」と自慢したくなってしまうような、うれしさがあります。

今回は、同じものはふたつとない「世界にひとつ」のバッグのお話です。

昨年の冬に誕生したこのバッグは、ゴート(やぎ)のレザーを使っています。
やわらかで軽やかな持ち心地が特長で、その持ち方も、サイドに付いた金具を使って、
いくつもアレンジできるようデザインしました。

ベルトを調整することで、ショルダータイプにしたり、斜めがけにしたり。
もちろん、ハンドルだけでシンプルに持つのもおすすめです。
飽きが来ず、時間を共にするほどに、味わいも思い入れも深くなるアイテムに仕上がっています。

さらにこの秋、新色のキャメルカラーが仲間入りし、コーディネートの主役にもなるバッグとなりました。


製造を担ってくれているのは、ものづくりの街・蔵前にある工房「ホワイトオーク」。
壁一面を革のストックが埋め尽くし、道具と資材が所狭しと並ぶ、まさに「職人の仕事場」といった雰囲気の場所です。
ここで、裁断から縫製へと丁寧に仕事が進んでいきますが、
このバッグに色染めされたレザーは使いません。
あえて色の濃淡やムラ感を生むために、縫製をしてバッグの形に仕立ててから革を染め上げる「製品染め」という方法を採用しています。
そうすることで、革それぞれの個性がさらに際立つのです。

また、このとき金具も取り付けてから染め上げることもできますが、このバッグではそうしません。
金具も、大切なパーツです。
なかでも、もっとも大きなものは、手作りした型で生み出した真鍮のオリジナルパーツ。
薬品との化学反応ではなく、手に持って使っていただくことで、
新鮮な経年変化を楽しんでほしいと考えているため、
あえて、すべて後付けにしているのです。
革は染めると、膨張したり変形したりしますから、後から取り付けるのは大変な手間です。
「こんなに面倒なことはないよ」
と笑いながら、ひとつひとつ丁寧に取り付けてくれる職人さんには、頭が下がるばかり。

そして、染めたあとに必要なのが「乾燥」です。
天気や湿度のごきげんを見ながら、約2週間を駆けてじっくりと自然乾燥させていきます。
そのあと乾燥機にかけてさらに乾かし、今度は縮んだ状態の革をほぐしてやわらかくします。
けれど、このバッグの加工はきれいに表面を整えただけでは終わりません。

あえて乾いた布で擦り、角やきわに使い込んだような艶感(=あたり)を与えるのです。
そうすることで、バッグ全体にヴィンテージのような表情が生まれます。
そこまで仕上げて、ようやくひとつのバッグが完成するのでした。

丁寧な「あえて」を積み重ねた、手間の結晶。

ホワイトオークの柏木さんは言います。
「こうやって手間暇を惜しまずに作っていると、
製品そのものが『いいものだよ、売れるぜ』って顔をして、語りかけてくれることがあるんだよね」
丁寧に製品と向き合い続けるからこそ、感じられる、ささやかな合図。きっと、このバッグも自信ありげに語りかけてくれているはずです。

素材そのものの個体差を活かし、また染まり具合や磨き具合にも自然と個性が生まれますから、完成するバッグはどれもこれも「世界にひとつ」のバッグです。
その色合いも、手触りも。
ふたつとして同じものはありません。

「わたしのもの!」と自慢しながら、秋空の下を歩きたくなる。
そんな世界にひとつとの出会いが、そっとあなたを待っています。


(文:中前結花)