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今度の春は、新しい顔

新しい、ってどきどきします。新しいカーテン、新しい友だち、新しいドレッシング。素敵な「はじめまして」がくれるのは、はずむような嬉しい予感。ほんのちょっとの不安が顔を出したとしても、「変わってみる」って楽しいものです。

パラスパレスはこの春、定番の生地「千鳥格子」を刷新することに決めました。コートにパンツ、ワンピース… と、いくつもの洋服を生み出しながら、十五年以上もの間、たくさんの人に愛してもらった生地です。ここに詰まった大切なものは引き継ぎながら、さらに魅力的な生地を生み出してみたいと、考えたのでした。

ブランドにとっても大きな一歩。今回そんな大役を担うことになったのは、入社二年目のデザイナーです。嬉しい予感と不安の間でゆらゆらとしながらも、千鳥格子の生地に浮かぶ鳥のように、真っ直ぐ真っ直ぐと前を向いて、必要なことを順番に進めていきました。

まずは従来の生地の魅力を、改めて理解することから。クラシックなイメージの強い千鳥格子を、カジュアルに表現しているところが、いちばんのパラスパレスらしさです。そして平織りならではの、ハリ感も大事なポイント。この薄くて丈夫な生地だからこそ、出来上がった洋服がいくつもありました。

そんなことを踏まえて、彼女は、平織りで作ることができる千鳥格子のパターンを全て出し尽くしてみよう、と考えました。パソコンで導き出すこともできますが、もっと、しっかりとしっくりと自分の手で頭で理解してみたい。そこで、コピー用紙を幅2センチほどの短冊状に割いて、それを糸に見立てて組み上げる「大きな織物」を始めたのです。

たて糸とよこ糸の本数の組み合わせをいくつもいくつも考えていきます。一口に「千鳥格子」と言っても、その表現の仕方は無数にあるのです。組み終わってはテーブルに並べ、どんな見え方になっているか、よくよく点検します。頭を悩ませること数週間。ようやく、なんとか2種類にまで絞り込み、その織組織をシミュレーションしたものを、工場で作ってもらったのでした。

しかし、手元に届いた紙を見て彼女は唖然とします。「千鳥格子に見えない……」二種類のうち一つは、従来の生地との違いがわからないもの、そしてもう一つはまるでチェック柄のようで、千鳥格子に見えないものとなってしまっていたのでした。変化を見せたい、けれどそれが美しい千鳥格子でなければ意味がありません。生地のサンプルと睨めっこをしながら、またしても悩みます。そうして最後に、平織りではなく綾織りを試してみる、という考えにたどり着いたのでした。

今度はコピー用紙の短冊で綾織りの千鳥格子を、また一から作っていきます。ひとつひとつ組織を作り、やがて、インディゴの糸とベージュの糸の割合を同じにして作ってみるようになりました。そしてそこで、「これは」と感じる1種類を、ようやく見つけることができたのです。「いいかもしれない……!」

工場から手元に届いたサンプルの生地。洋服のように体にあてがったり、先輩にも見てもらいながら、改めて丁寧に考えます。パラスパレスが大切にしているインディゴの魅力は存分に出ている。インディゴとベージュの糸が織りなすからこそのカジュアル感はそのままに、千鳥柄は倍の大きさにすることで、インパクトが出ました。平織りから綾織りに変更したことで、あのハリ感は失われてしまいましたが、そのぶん少し肉感のあるやわらかな生地となり、この素材にぴったりのドレープを使った洋服デザインがいくつも頭に浮かびます。「これだ……」

こうして、パラスパレスの千鳥格子は「新しい顔」へと生まれ変わったのです。フレアスカートやフレアシルエットのワンピース、これまでの生地では生まれなかった新しいアイテムたちも生み出すことができました。

新しいってどきどきします。
たくさんの人に愛されることを祈るように願いながら、まずは誰かのとびっきりのお気に入りになれることを目指しています。やっぱり「変わってみる」ってすごく楽しい。そんな気持ちで迎える春です。

(文:中前結花)