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一期一会のぬくもりと。

日が落ちるのが早くなり、家路につく人たちの様子もどこか足速に感じる冬です。
そんななかで見過ごしてしまいがちなのが、静かな夕暮れ。
この季節は、あまり外でじっくりと眺めることはないかもしれません。
けれど、ふと立ち止まって目を向けてみれば、
黄金色にきらきらと輝く冬の夕焼けは、
あたたかな時期よりもくっきりと見え、そっと心の強張りもほどいてくれるような美しさです。

今回の主役は、そんな夕暮れのような色合いのニット。
身につけたときのあたたかさはもちろん、
目にする人にも「いいなあ」とあたたかな気持ちを届けられるような、美しい縦のグラデーションが魅力です。

この階調は19段階の色の切り替えによって表現されていて、まるで水彩画の滲みのよう。
あえて裏側を表面にすることで、絶妙な色の混じりを強調させています。
自動の編み機では、ここまで細かに切り替えを行うことができないため、
使っているのは、手動の編み機(手横機)。
手間のかかる手法で1色1色の糸を編み立てていくので、たくさんを生産することは叶いません。
豊かな表現だからこそ、数に限りがあるのです。

さらに、複数色の糸を混ぜながら編んでいくため、糸と糸の「ねじれ」が生まれ、
均一的な配色にはなりません。
「ねじれ」の加減で変わる表情がおもしろく、まったく同じものはふたつとないのです。
その意味でも、これは「一期一会のニット」なのでした。


この冬のテーマを「もくもく」と決めたとき、
これまで見たことのない表現で、特別なニットを作りたい……とわたしたちは思いました。
まず動いたのがニットデザイナーです。
家庭用の編み機を使って、切り替えの美しい縦グラデーションの編み地を作り、
「こんな表現ができます」とみんなに見せてくれました。
それを見たデザイナーが「ぜひ、この色味で表現したい!」と絵を描き、
あれこれと試しながら19色の糸を決め、
実現できる機械を探し、実際の形になっていったのです。
この階調のようにそれぞれの仕事が重なり、交わり、このニットも完成したのでした。

そして忘れてはいけないのが、腕の一部分には質感の違う特別な糸を使っていること。
あえてそこだけ表情が変わるよう、アクセントとして使っている箇所があるのです。
目で楽しむのはもちろんのこと、そっと触れてみても、
そのおもしろい違和感に気づいてもらえることと思います。
そんなさりげない遊び心も含め、
「誰かにとっての特別な1着になりますように」
という想いを込めて、それぞれの工程も重ねてきました。

思えば夕焼けも「一期一会」です。
そのときの色の交わりも、そのときの輝きも、
同じものをまた見つめることは決して叶わず、
見つめている間にも移ろいでしまうものです。

今しか出会えない、同じものはふたつとない。
そんな景色を閉じ込めたようなニットを数量限定でお届けします。
あなたの冬に、ぬくもりと彩りを添えてくれる一着となりますように。


(文:中前結花)