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秋の、幸せなスカート。
指先でそうっと触れて撫でたくなる、
 “ふかふか”と膨らんだモクレンの芽。
 夕暮れの風が、少し冷たくなりはじめたころ包まれたいのは、
そんな、やさしくって愛おしい“やわらかさ”かもしれません。

今回は、「モクレンの芽」をイメージして作った、スカートのお話です。
糸と手仕事で作り上げられたふっくらふかふかのモチーフがいくつも並んでいます。

この生地が生まれたのは、「西の西陣・東の桐生」とも言われる群馬県桐生市。 
日本を代表する機どころ(はたどころ)で、 「カットジャガード」という技法を用いて、作られました。 
そこには、丁寧でひたむきな手仕事から織りなされた 「旅物語」のような過程があったのです。

そんな様子に触れたいと、わたしたちがまず向かったのは、 1920年創業の老舗・小林当織物株式会社。 
工場を訪れると、そこには建物の2階へと吹き抜けるほど、 背の高い織機がいくつも並んでいました。 
それらが皆、思い思いの大きな音をたてて せっせと働いています。

「ジャガード織機」と呼ばれる機織り機は、 紋紙(もんがみ)という穴が空いた紙を使うのが特徴です。 
この紙で針の動きを制御することで、 模様を織り出していく仕組みになっています。 
眺めていると、紙の上を針が通り、済んだ紙が次々と送り出されてきます。 その様子はまるでオルゴールのよう。
音の代わりに糸がつながれ、生地になっていくのです。

そんな繊細な作業ゆえ、 1日に織ることのできる長さは40mだといいます。 
これは、一般的な生地の5分の1のスピード。 いかに一段一段に時間をかけて織られているかがとてもよくわかります。

そうして織り上がった生地は、 次に「蛭間シャーリング」という工場へと渡っていきます。 
ここからは、専用のカッターを使い、 なんと人の手により糸をカットして絵柄を浮かび上がらせていく作業です。
ぎゅっと目の詰まった箇所に、バリカンのような刃を入れ、 
生地を傷つけないよう気をつけながら、 模様部分だけが毛羽立って残るよう、 糸を掬う(すくう)ようにしてカットしていくのです。
糸をつぶさに見つめながら、ザッザッ。
切り残しがないように、ザッザッ。
ただ黙々と作業をすすめているようで、たくさんのことを気にかけながら、
大事に大事に刃を入れ続けていくその背中はとても印象的なものでした。 
切りきれていない糸が残らぬよう、何度も何度も繰り返していくのです。

切ってしまった糸くずは、圧縮してキャンプ用の着火剤や 火力発電所の燃料としても再利用されているといいます。 
無駄のない作業と、無駄を出さない心遣い。 
心を配り尽くし、「良いものを作り続ける」ことを見据えた現場だからこその取り組みです。

そんな無駄を出さないカット方法で整えていき、 仕上げにマシンで長さを揃えて絵柄はできあがります。 
そうっと触れてみると、ふっくらふかふか。 思い描いた「モクレンの芽」の完成です。

オルゴールのような織機から生まれた生地は、 カットの現場で手間ひまをかけてもらい、
さらに染め上げられ、スカートへと縫製され、たくさんの目でチェックされ、 お店へと届きます。 
そして、いつかは誰かのお気に入りとしてクローゼットに仕舞われる。
たくさんの人の手に、目に、触れながら旅をするスカートを想うと、 それは途方もないご苦労のようで、 
「なんと幸せなスカートでしょう」とも思います。

そんなスカートを、まとってみる心地はどうでしょう。 きっと、ふかふかと幸せな想いでいっぱいになってしまうはずです。
あなたを包んだあとは、またクローゼットの中でふわりと眠る。 
これからのスカートの暮らしも、 そんなふかふかとやさしい心地で溢れますように。

(文:中前結花)