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冬に明るい灯りを


「冬うらら」ということばが思い浮かびました。
寒さはあれど、陽の光が明るく晴れやかである様子のことで、冬の季語でもあります。
1 年の終わりを迎え、また新しい 1 年を迎えるのもこの季節。 忙しなく感じることも多いですが、束の間訪れる「冬うらら」と詠みたくなるような穏やかな時間をそっとお守りにして、またひと冬、乗り越えていきたいものです。

今回は「冬うらら」と名づけた、ぱっと明るく晴れやかなテキスタイルと、その生地を使っ たベストとスカート、そしてストールのお話です。 「カットジャガード」という技法を用いたふかふかであたたかな風合いが特徴のシリーズ。
 また今年も冬のファッションにやさしく彩を添えてくれるような、自慢のアイテムが完成し ました。

テキスタイルを作るには、まずはデザイナーが描き下ろす図案が必要です。 
イメージしたのは「北欧のタペストリー」。シンプルでありながら、あたたかみのある風合 いを目指しました。 いくつものアイテムに展開するものですから考えることは多く、決してサラサラと描けたわ けではありません。モチーフに強弱をつけ、配置を入れ替えることを繰り返し、何度も何度 も描き直して、「これならば、喜んでもらえるだろう」と思える最適なものへと、苦労しな がら近づけていったのです。
 中でも大切にしたのは、幾何学的な表現でも味気なくならないこと。あえてバランスを崩し たり、歪さを演出することで、味わい深い絵柄を完成させました。 そして、色が沈みすぎてしまわないよう考えることも重要でした。冬だからこそ、色の表現 をたのしめるようなカラフルなものにしたい。そう考え、パッと明るく華やかなものに仕上 げることを意識したのです。 
さらに、このテキスタイルの技法にはいくつか制約がありました。 たとえば、同じ色の表現は 40cm 以上離すことができないということ。赤色の糸を使ったな ら、その場所から 40cm 以内の場所でもう 1 度赤色を使わなければいけないのです。 着たときのバランスを考えながら、制約の中で絵柄の大きさや配置を考える。これは、なか なか頭を働かせなければいけないものづくりです。

原画が完成したら、今度は工場でサンプルを作ってもらいます。 
お願いしたのは、ウールの産地である愛知県一宮市にある工場です。その昔、この土地で繊 維業に従事する人はあまりに忙しく帰ることができなかったため、朝に食事ができるよう、 周囲で喫茶店の「モーニング」という文化が栄えたとも言われています。 今ではここは、ウールだけでなくモーニングの聖地にもなりました。 
そんな一宮市の工場で、原画をもとにした設計データの作成やサンプル用の糸染めが行われ ていきます。 準備が整うと、ジャングルジムほど大きい編み機を使って、筒状に長く長く生地が編まれて いきます。この柄は、丸 1 日で編めるのが 120m ほど。糸のセットなど手作業も欠かせま せん。 そして「放反」といって、編まれたばかりの生地はしばらく寝かせます。
こうすることで、 編み地が安定し生地がリラックスするのだそう。 寝かせたあとは、鯉のぼりのように筒状になった生地の 2 箇所にハサミを入れて開き、1 枚 の生地にします。開かれた生地は、ここからさらに別工場へと送られるのです。

次の場所で行われるのは、「バックカット」といって生地の裏側の糸のカットです。絵柄を 表現するために生地の裏側にはたくさんの糸が渡っているのですが、それをまずはハサミを 使って「荒刈り」していくのです。30m を刈るのに、約 2 時間半がかかる手作業。根気が 必要な工程です。

その後、今度は機械を使って 30 分かけながら、カットしていきます。この 2 つの工程を経 てはじめて、糸がたくさん出ていた生地裏がきれいに仕上がるのです。

カットを終えたあとは、フェルト状にする揉み込みの作業。糸と糸が絡み合い、絵柄がにじ んだような「ふんわり」とした表情になるのでした。 そしてサンプルを何度も確かめ、やり取りをしながら理想の生地へと仕上げます。 こうして、膨大な時間をかけた手作業の積み重ねにより、「冬うらら」の生地は完成したの でした。

ウール 100%のバックカット仕様ですから、肉感が厚すぎず軽やかで、それでいて温もりあ る素材に仕上がっています。それを丁寧に縫製して生まれたスカートやベスト、ストールは ハッとするようなカラフルさと糸の風合いから感じるあたたかみで溢れています。

身につけたなら、部屋にお気に入りのタペストリーを飾ったときのように、晴れやかでうれ しく、「これから」のすべてがたのしみになるようなデザインです。 たっぷりと手間暇かけたカットジャガードの素材と、多色使いの華やかさが、あなたの心を そっと明るく灯してくれますように。



(文:中前結花)