------------------------
「特別」が織りなす夏なら
短い袖に腕を通し、編まれた帽子なんかを頭に乗せて、大きな口で笑い合いたい夏が来ます。
こちらのことはお構いなしに、降り注いでくれる日差しはどこか健気で、「変わらぬこと」を、ここ数年は愛おしくも感じるようになりました。
短い袖の、ほんの少しの日焼けを悔やめるような。 身近にあった「夏と洋服」を そっと、たくさん、味わいたい。 たとえば、心を弾ませてくれる “グレンチェック”に身を包んで、 ちょっと足を伸ばしてみることができたら——。
今回はそんな、るんるんとした思い出によく似合うグレンチェックが主役です。
パラスパレスの洋服は、絵柄からすべて手作りされたもの。ですから、チェックの細かなタテヨコの線も、その裏側には、丁寧に1本1本を描いた筆を握るデザイナーの姿があるということです。
「頭の中に描いたチェックを丁寧に起こしていくんです」そうデザイナーはおしえてくれます。まだ他には誰も知らない、チェックの柄が頭の中にはあれこれと広がっているのだそう。それは時に、雄大な田園、いつかの街の風景、
そんなものからインスピレーションを受けていることもあるというから、おもしろいものです。
いま手がけている、とても繊細なチェック柄は不思議なもので、同じ条件で染めていても、タテ線はヨコ線よりも強く見えてしまう傾向があるといいます。それをうまく調整するため、「タテ糸を薄い紺色にして、ヨコ糸を濃い紺にする」といった工夫まで考えて、丁寧にデザインを起こします。
時には印刷した紙で、小さなお人形に着せるような洋服を実際に組み立て、出来上がりを想定しながらつくっていくことも。それでもパタンナーに組んでもらうと、イメージががらりと違ったり、洗いをかけると縮んでしまったり......。そんな「想定外」が待ち受けていることもあるといいます。
チェック柄はタテヨコがわかりやすい分、織る人は縮んでしまわぬよう、切る人はずれてしまわぬよう、縫い上げる人は位置が違わぬよう、それぞれのパートを担う人たちがどこまでもどこまでも配慮する必要があるのだとか。それぞれが特別に注意をはらって仕上げるのがこのさりげないチェック柄なのでした。
もちろん、
糸屋さんにとって完成品は「糸」。 生地屋さんにとって完成品は「生地」ですが、 そのそれぞれが“材料”となり重なり合ってできるのが、「洋服」。
あれこれ悩みながら作る、孤独な図柄の検討に始まり、
それぞれの特別に丁寧な手仕事が重なることで、この何食わぬ顔をしたサラリと美しい洋服が出来上がっているということ。それを「忘れないようにしたい」と心に留めます。
そんなタテとヨコの重なりが織りなすように、 特別な仕事が重なった洋服に袖を通し、 今年の夏は駆け抜けられたなら......。 そして、今できる“特別な毎日”を重ねることができたなら......。 きっと「夏」は無駄になったりなどしません。 どうか、グレンチェックのような 思い出重なる素敵な季節となりますように。 織りなす丁寧な毎日の傍に、 とびっきりお気に入りの洋服があることを願っています。

(文:中前結花)