まあるい、ものづくり

風が吹き込んで、窓のカーテンがくるくると軽やかに舞っています。
思えば「夏」は、目が回ってしまうほどに過ぎるのがはやく、
だけれど、日焼けのあとのように余韻もじんわりと残してくれる、
なんだかとっても不思議な季節です。

身につける洋服も、シンプルで軽やか。
だけれど、くっきりと印象に残るのは「なぜだろうか」と考えをめぐらせてみます。
そうして、くるりと立ち戻り、「ああ」と気づいてひとりごちる。

それは、朝、心地のいいものを選んで袖を通したなら、
コートやダウンの中に仕舞い込んでしまうこともなく、
1日中、「わたし」を表してくれるのが、
夏服の役割だからかもしれない、と思ったからです。

さりげないのに、印象に残る。
軽やかなのに、心地をじっくりと味わえる。
今回は、そんなこだわりが詰まった
表情豊かなカットソーのお話です。

螺旋を描きながら糸をループさせ、
くるくると筒状の布地をつくる「丸編み」。
こだわりのカットソーも、この「丸編み」から生まれたものです。
使ったのは、「ラフィ」と呼ばれる糸。
20年来の付き合いになる、言わば“気心の知れた仲”とばかり思っていましたが、
振り返れば、ここまでこの糸を深く知り、しっかりと向き合ったのは、
はじめてのことかもしれません。

きっかけは、「ラフィ糸」をつくる大正紡績さんのお仕事を拝見するため、
大阪府阪南市の工場まで伺ったことでした。

糸は、ぐるぐると多くの工程をめぐりながら、
丁寧に丁寧につくられるものです。
素材は綿花。
世界中の畑で、ぽんっと丸いわたをつけて集められ、やがて工場に運ばれてきます。
大正紡績さんはそれらの綿花を、
産地はもちろん年度や特徴ごとにきっちりと整理し、非常に細かに管理しています。
そうして蓄積されたノウハウで丁寧にブレンドを手がけるから、
いつでも安定したクオリティを届けることが叶うのです。

そして、ラフィ糸に混ぜ込まれているのは、
わたの中でも糸の製造工程の途中で大量に出る「落わた」。
産地でつくられた、大切な綿花を無駄にしない心遣いがここにあります。
落わたには、長さの異なる繊維がたくさん含まれているので、
できあがった糸には自然とムラができます。
そのナチュラルなムラが、ヴィンテージ感のある風合いと独特の表情をつくる。
そして、このようなエコな背景にも魅力を持った素材だからこそ、
わたしたちも胸を張って使い続けることができているのだと
改めて感じることができました。

大正紡績さんは「トップ染め」をほどこし、
常に100色以上のわたをストックしています。
それを絵の具のように混ぜ合わせて調合し、落わたを混ぜ込んで、
新たな色のラフィ糸をつくりだすのです。

夏に向け、わたしたちがつくりたかったのはオリジナルカラー。
カットソーにするための、深いネイビーと、やさしいベージュの2色でした。
その糸づくりのために話し合いを重ね、
深みを出すため「隠し味」のように色を加えては調合を試して、
幾度もぐるぐると立ち戻ります。
そして「この色、すごくいいなあ」と思わず声が漏れるまでこだわり抜くことで、
ようやく、世界にひとつしかない色を
一緒に完成させることができたのだと思いました。

そうやって丁寧につくったオリジナルの糸を
筒状にぐるぐると、まあるく丸編みして仕上げたのが、
このシンプルなカットソーです。
何種もの色が調合されているので、無地でもさりげない表情があリます。
そして洗えば糸がすこしずつほぐれていくので、
身につけるほどに、一層「あなただけの色」になる。
それがまた、ラフィという糸のおもしろさです。

大正紡績の浅田さんは言います。
「展示会や店頭で、思いもかけずラフィに出会えたときが、いちばんうれしい」
その背中で、いくつもの工程で携わったプロたちの仕事を背負っています。

たどれば、綿花を大切に育てている産地のひとの仕事がある。
それが海を渡って運ばれ、いくつもの工程を重ねて糸になる。
糸を編み上げて生地になる。生地を縫製して、洋服がつくられる……
その丸い袖口にわたしたちが腕を通すとき、
ようやく、たくさんのひとの仕事がぐるりと繋がるのだと思います。

ぐるぐるめぐる、まあるいものづくり。
やさしい心地のカットソーが、
この夏の「あなた」を表現してくれる特別な1枚になりますように。
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