「 大切に していきたいこと 」

 冬のテーマ「甘辛」は、甘さと辛さのバランス感を楽しむ服です。
これは、オリジナルの糸を作りに、愛知県岡崎市へ訪れた時に思いつきました。

 かつて、紡績業で栄えた地域で大正元年に創業して、今もなお独創的な糸を紡ぐのは、創糸社の澤田さんです。
 澤田さんは、まず私たちの作りたい服を丁寧に聴き取っていきます。そこから、羊の種類、ワタの紡ぎ方、撚り方を試行錯誤して、イメージを糸にしていきます。こうしてこの冬は、ふたつの糸が出来上がりました。

 ひとつめは、カスリツイード糸です。撚りを最小限にしたので、やわらかく空気を含みます。冬の日向色に、様々な色が程よく混じりあうカスリの表現には特にこだわりました。
 ふたつめは、フェルトウール糸です。艶と張りを持たせるため、アルパカとメリノ種の羊をブレンドしています。これを糸の段階でフェルト化させる、とても難しい加工です。素材を見極めながら、何度も風合いを確かめてつくる、澤田さんならではの技術が詰まっています。
 ここから、ものつくりのリレーが始まります。長年パラスパレスのニットつくりを担ってきた夏目さんが、糸の個性をとらえ、どう編むかを、デザインと相談しながら服に仕立てます。編目の強さひとつで、がらりと雰囲気を変えるニットは、毎回新鮮な気持ちで取り組むそうです。

 澤田さんは、バトンをつなぐ人たちみんなが同じテーブルにつくことが、何より大切だと教えてくれました。
「それが、本来の共生ではないでしょうか」この言葉に私たちは、はっとしました。パラスパレスが大切にする日本の美とは、尊重と調和からうまれるからです。席に着き、改めてその大切さを知りました。
 指先ひとつで何でも買える便利な時代です。しかし、手から手へでしか伝わらない、温もりや気持ちがあります。お客様に、このバトンと一緒にそんな思いも、お渡しできればと思います