洋服は「顔」

洋服は、わたしたちの「顔」とよく似ています。

それは、いつもと違う様子に、
時折、はっ とすることがあるからです。

陽に当たるとき、日陰のとき。
遠くから眺めるとき、近くで見つめるとき。

それぞれ違う「表情」を見せてくれるとき、
洋服はおもしろいなあと思います。

そして布にも「目」と「耳」があります。
わたしたちは、
布地の方向を「目」、布の端を「耳」と呼びます。
そんな、顔をつくる大切なパーツである、布の「目」や「耳」を
丁寧に活かした自慢のシャツが完成したので、なんだかとても待ち遠しい春でした。


『格子と縞のローン』、『目と耳のタイプライター』と名付けたふたつの生地。
これは、先にシャツの形を設計してしまってから、
「こんなシャツをつくりたいのです」と生地づくりに赴きました。

向かったのは、「播州織」で有名な兵庫県の西脇市。
「播州織」は何人もの手をかけ、丁寧に先染めした糸で柄を織る先染織物です。
中でも、わたしたちがお願いしたのは「シャトル織機」という旧式の織機。
その作業スピードはとても遅く、
1日で織ることのできるのは、たった20メーター。
それも、職人さんがぴたりと傍についていなければいけないというのですから、
これは大変に手のかかるものづくりです。
それでも、わたしたちはどうしてもこの織機を使いたいと思いました。

理由のひとつは、「耳」の仕上がり。
通常、生地の端は、5cm程度裁断して捨ててしまうものなのです。
ただでさえ現在の織機でつくる生地の端には、
フリンジのような「房(ふさ)」がついていて、
これは両端を裁断しながら織りすすめていくために生まれる「余分」です。
そして房の手前は布の目も安定していないので、
やっぱり数cmは切り落とされてしまうのです。

しかしこの旧織機は、水泳のターンのように折り返して織りすすめるため、
端に房はできません。
その目はキワまで整っていて、耳端まで使ったものづくりにぴったりだと考えました。

そしてなんと言っても「風合い」。
昨年この織機を使ったとき、最初は、
お化粧のように糸の表面に艶加工を施すつもりで制作を進めていました。
しかし強度の都合でその加工を諦めたとき、「そのままを活かす」判断をしました。
するとどうでしょう、それがとても好評だったのです。
艶のお化粧を施さずとも、「洗いざらしのような表情が、すごくいい」と、
みなさんからたっぷりと褒めてもらいました。
「すっぴん」の美しさといいましょうか、糸の持ち味がダイレクトに出ているのです。


そんな偉大な仕事をこなす旧織機は、
もともと西脇市の川沿いにある機屋(はたや)さんのものでした。
しかし、年配のご夫婦が営んでいたその工場は、7年前の大きな台風で水に浸かってしまい、続けることができなくなってしまったのだといいます。
以降その古い織機は、織物メーカーである「桑村繊維」さんが引き取って、今も大切に引き継いでいるのでした。
改良に改良を重ねながら使い続け、今ではごく薄い生地や密度の高い生地も仕上げられるようになっています。

この織機だからこそ表現できる、「目」の味わいと「耳」のおもしろさ。
「桑村繊維」の岩田さんは言います、「単純な生地ほど奥が深くて難しい。終わりがないのがおもしろいところ」だと。
この生地にしてもやはり、「こんなシャツをつくりたい」というわたしたちのデザインと要望を、職人の「目」で見て「耳」で聞き、真摯に向き合い仕上げてくださいました。


そんな職人さんの仕事が折り重なった、自慢のシャツ。
『格子と縞のローン』は、格子と縞の掛け合わせに蛍光色を使っているところがお気に入りです。そして、『目と耳のタイプライター』は目の詰まったハリのある素材。袖口を裏返すと、耳を活かしたあしらいが見えます。

その時々で変わる表情、そして見れば見るほどに湧く愛着。
経年だって、味わえばたのしくて、とても自分らしい。
やっぱり洋服は、わたしたちの「顔」によく似ていると思うのでした。

そして、何度でも眺めて嬉しくなるような、
そして時に気づいた誰かが「お、いいね」と声を掛け微笑んでくれるような。
「目」で、時に「耳」でたのしむことができる、そんな洋服に仕上がったと思っています。

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文:中前結花
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